みなさんは秋の夜長、どのように過ごされているでしょうか。
私は今の家に越してくるまでに、あちこち数えてみると5回の引越しをしていました。
今回はその引越しの都度、ずっと持ち歩いてきた本をご紹介したいと思います。
最初は 手塚治虫の ”どろろ” です。 大好きな漫画です。
ちびっこ泥棒の どろろ と、体の48ヶ所を魔物に奪われた少年サムライ? 百鬼丸 の冒険譚。
足りないものだらけの2人が旅をとおして、実はもっと大事なものを手にしていくという物語です。
全4巻の単行本ですが、自分で2人の旅をいくらでも広げられる奥行きの深い物語。
ふとしたときに読み返し、引っ越した先々で新しい話を想像していました。
2冊目は、中上健次の最初のエッセイ ”鳥のように 獣のように” です。
あまりに読みすぎて本はボロボロです。
中上健次の小説の舞台は殆どが著者の故郷、紀州、熊野周辺にあり、
その風土と別ちがたい土地の人々の生活が物語の主軸にあります。
学生のころ、風土について、もっと言うと自分の生まれた場所やそこの空気について
考える大きなきっかけをくれた作家です。
いまの建築の仕事でもその影響が続いています。
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3冊目は宮本 輝の ”星々の悲しみ” です。
ユーモアのある悲しい青春小説です。
物語中、シーンの空気がそのまま伝わってくる稀な小説です。
私の好きな本は、自分のなかで映像にできるかが大きなポイントのようです。
装丁も洒落た4冊目の本は 建築界の巨匠 ル・コルビュジェの著作 ”小さな家(母の家)” です。
人にあげたり無くしたりと現在 3冊目の本です。
建築に必要なエッセンスがすべて詰まったような、建築士必読の書だと思います。
1923年、歳老いた母のためにスイス、レマン湖の畔に建てた小さな家の
計画から母が住みだしたあとの後日談までを、著者の解説と美しい写真で綴った本です。
私たちのKibacoでも設計している、横長の水平窓の元祖は上の写真にあります。
この本を読むと家をつくるのに必要なことは何か、初心に還ることができます。
5冊目は映画 ”戦場のメリークリスマス” の原作の ”影の獄にて” です。
原作は3部構成になっています。 不思議な装丁です。
特に第二部 ”種を蒔く者” の主人公セリアズの弟のエピソードが何度読んでも良いのです。
その弟は農夫なのですが、小説の舞台のアフリカで大地と交感し、野生の動物とも繋がる特別な感覚を
持っていて、普通の人々の中で浮いた存在として描かれています。
物語のなかで人の生活でほんとうに大事なことは、物の豊かさや社会常識に添って生きることではないことを
暗に語ってゆきます。
そのような人が土地を読み、家をつくるとどんなものになるか、ふと考えてしまいます。
6冊目は 木村 敏 著 ”時間と自己” です。
高名な精神科医によって記されたこの本は
世界には、原因があって結果があるといった”もの”を客観的に捉える見方だけで成り立っているのではなく、
別の”今起こっていること”という客観視できない側面があることを、教えてくれます。
非常にスリリングな展開は、何度読んでも引き込まれます。
この本の最後には著者による、はっと我に帰るような ”あとがき” があります。
ずいぶん長くなりましたが最後は 遠藤周作による渾身の著作 ”イエスの生涯”です。
読むたびに居住まいを正したくなります。
この本のなかでイエスは等身大の人として描かれています。
私はキリスト教を信仰してはいませんが、イエスの深い悲しみや苦悩、絶望的な立場を辿っていくと
何故か勇気のようなものが湧いてきます。 とても不思議です。
ランダムな本の紹介になってしまいました。
建築には関係ないように見える本もずっと持ち歩いてるところをみると私には大事な糧になっているのだと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
SEED設計室 野田 直彦 でした。